天の川  楫の音聞こゆ  彦星と織女と今夜逢ふらしも







【 星に願いを−1− 】







「ちぇ…っ、せっかくの休みだっつーのに雨とか…ついてねぇー…」

「ははっ、コレばっかりは仕方がないさ」



僅かに拗ねた様な声音が室内に響く。
ベッドの上で胡坐をかき窓の外に広がる雨天を見上げるルークの様子に、思わず同室のガイは苦笑を零した。
翡翠の双眸が見る方へと自分も視線を流せば、雨に霞む水の壁が見える。

此処は、グランコクマの宿の二階の一室。
「連日続く厳しい旅の中だが、たまには休みが欲しい」 …という一同一致の意見から、短い休日を楽しむ為に街に入り宿をとった一同。

ところが。
さて観光に勤しもう買い物に出かけよう、と一同が宿を出ようとした瞬間――…



「……あのタイミングで降り出すとか、雨男か雨女が居るに違いねぇよ」

「雨女雨男ってお前ねぇ…ただ単に、運が悪いだけだろう?」

「わかってるっつーの…でもなぁ、そーでも思ってねぇとやってらんねぇー…! 大体俺、雨の日にすることなんてねぇもん…!」



ルークは雨の日はあまり好きではない。
理由は簡単、自分だけする事がろくに見つからない…という子供じみたものだ。
自分の様に音機関を弄ったり、ジェイドの様に読書に勤しんだり…なんて詰まらないとは本人の談。
大人しく室内で時間を潰せる趣味は持ち合わせていないルークからすれば、雨の日なんて退屈以外の何者でも無い訳で。
思わず不機嫌にもなろうというものだ。



「寝る…こうなったら丸一日寝てやる…!」

「まだ午前中だぜ? そんなに寝てたらボケちまうんじゃないか?」

「いーんだよ今日ぐらいはっ」



一言宣言すれば、目の前で朱色の髪がぐらりと揺れる。
勢い良く背中からベッドに倒れ込んで、日の匂いが僅かにするシーツを掻き寄せる音。
そのまま体を丸くして、本格的に寝る体制に入った背中に、



(こりゃ、今は何言っても聞きそうもないな…)



無駄に固い意志を感じて、思わずやれやれとばかりに肩を竦める。
妙な所で頑固なルークだ、シーツから引っ張り出した所でまた潜り込むに違いない。
まぁ、偶の休み。
眠って体を休める、というのも有意義な休日の過ごし方なのかもしれない。

…などと無理やり自分を納得させる事にする。
その辺りの気持ちの切り替えは、長い付き合いなのだ…慣れたものである。



「しっかし、雨とはね…」



膨らんだシーツから、壁のカレンダーへと視線を移しながらポツリと言葉が落ちた。
壁にかけられた日捲り式のカレンダーは、『7/7』とフォニック文字で今日の日付を主張している。
その日付に思い出すのは、幼い頃の思い出だ。
まだ自分が子供だった頃に、姉上だったか母上だったかから聞いた話が…ふと、脳裏を過ぎる。


「せっかくの『七夕』だってのに雨とは…空のお二人さんもツイてない」







「……………『タナバタ』?」

問いの声が、落ちた。
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